Ozuna|サンフアンの少年が“New King of Reggaeton”と呼ばれるまで

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プエルトリコ・サンフアンから登場し、いまや一部メディアやファンから「New King of Reggaeton」とまで呼ばれる男──それがオスナ(Ozuna)である。
1992年生まれの彼は、レゲトン/ラテントラップを軸にしながら、ポップ、R&B、バチャータ、デンボウまで飲み込む“メロディ職人”として、ラテン音楽シーンを代表する存在となった。

この記事では、ディスコグラフィーの羅列ではなく、「どんな環境から生まれ、どうやって“世界のオスナ”になったのか」というバイオグラフィーを中心に、人物像を掘り下げていく。

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祖母に育てられた少年時代:貧困と音楽

オスナはサンフアンの、決して裕福とは言えない地区で育った。父親はドミニカ系で、かつてはレゲトンのパイオニア Vico C のバックダンサーとしてステージに立っていた人物である。しかしオスナが3歳の頃、父は銃撃によって命を落とす。母親も経済的には厳しい状況にあり、彼は主に父方の祖母に育てられることになった。

祖母の家は、ボデガ(小さな雑貨屋)の上にある小さなアパート。お金はないが、祖母は強い信仰心と「何かを得るには汗をかかなければならない」という価値観を、繰り返しオスナに教え込んだ。スニーカー1足、鉛筆1本にも努力のストーリーが付いてくるような環境である。

一方で、家の中にはいつも音楽が流れていた。サルサ、メレンゲ、バチャータといったカリブの伝統的なラテン音楽。外には若者たちが鳴らすレゲトンの低音。少年オスナは、Daddy Yankee、Don Omar、Wisin & Yandel など“本物のレゲトン”に夢中になりつつ、Jay-Z や Usher といったUSヒップホップ/R&Bも聴き込んでいった。

12歳のとき、彼は「歌手になる」と心に決める。叔父から最初のマイクをプレゼントされ、そのマイクに向かって好きなアーティストの曲をラップでなぞりながら、自分なりのメロディやフロウを少しずつ組み立てていった。そんな“自宅スタジオごっこ”から、後の世界的スターの原型が生まれていくことになる。

ワシントン・ハイツで学んだ“DIY精神”

青年期のオスナは、地元のバーや小さなイベントで歌いながら経験を積んでいく。ただ、プエルトリコの現実は厳しく、貧困や暴力の影が常につきまとった。
「環境を変えたい」という思いから、彼はマンハッタン北部・ワシントン・ハイツへ渡る。ここはドミニカ系やラテン系コミュニティが多く住むエリアで、音楽的な刺激も豊富な場所である。しかし治安や経済的な面では決して楽ではなかった。

そのなかでオスナは、自分でビデオを撮り、自分でネットにアップし、自分でプロモーションするという“DIYスタイル”を身につけていく。最初期に作ったミュージックビデオの制作費は、100ドル以下だったと言われるほどだ。安い機材と限られた環境でも「とにかく作品を世に出す」という姿勢が、彼の武器となっていった。

ただ、ワシントン・ハイツもまた暴力や貧困とは無縁ではなく、「場所を変えただけでは人生は変わらない」という現実にも直面する。結果的に数年後、彼はプエルトリコへ戻る決断を下し、「環境を変える」のではなく「音楽で人生を変える」方向へ舵を切ることになる。

“J Oz”からOzunaへ:ストリート発のバイラル・ブレイク

2012年、彼は「J Oz」の名義で本格的に音楽活動をスタートさせ、プロデューサーデュオ Musicólogo & Menes との仕事などを通じて、シーンの端っこに名前が見えはじめる。同年リリースされた「Imaginando」は、まだローカル感こそ残るものの、彼のメロディセンスが光る一曲だった。

2014年頃にはGolden Family Recordsと契約し、YouTubeを主戦場にする戦略へシフトする。当時はSpotifyやApple Musicよりも“とりあえずYouTubeで聴く”感覚が強かった時期であり、オスナは次々と楽曲をアップし、コメント欄と再生数を通じてファンとの距離を縮めていった。
「ストリートで話題になった曲が、そのままYouTubeでバズる」──そんな循環を、自力で作り出していったわけである。

この時期の代表曲が「Si Tu Marido No Te Quiere」だ。当初はD.OZiをフィーチャーしたバージョンがストリーマーの間で広がり、後にリミックスやラジオでのオンエアも含めて、プエルトリコだけでなくラテンアメリカ各地に届いていった。

さらに2016年には、DJ Luian、Mambo Kingz、De La Ghetto、Arcángel、Anuel AAらと組んだ「La Ocasión」がヒットする。ここで「若手だが第一線のスターたちと肩を並べる存在」として、オスナの名前が一気に浮上した。
この頃には年間300本近くのショーをこなしていたとも言われ、まさに“現場叩き上げ”のスターとして、ストリートとネットの両方で支持を獲得していくことになる。

『Odisea』〜『Aura』:ストリーミング時代のモンスター・アルバム

2017年、Sony Music Latin とのタッグでリリースされたデビューアルバム Odisea は、ストリーミング時代のラテン音楽シーンを象徴する一枚となった。
Odisea はBillboard Top Latin Albumsで1位を記録し、その後も長期にわたってチャート上位に居座り続ける。RIAA(アメリカレコード協会)のラテン区分においても複数のプラチナ認定を獲得しており、「新人の1stアルバム」とは思えないロングヒット作となった。

続く Aura(2018)は、ラテンチャートだけでなく、Billboard 200のトップ10入り(7位)を果たす。スペイン語のアルバムが北米の総合チャート上位に普通に入ってくるという、“時代の変化”を象徴する一作である。

こうした作品群を含むキャリア全体を通じて、オスナはラテン・グラミー賞をはじめとした多くの音楽賞を受賞・ノミネートしており、「ヒット曲が多いだけでなく、批評的な評価も得ているアーティスト」として位置づけられている。

その後も、

  • Nibiru(2019)
  • ENOC(2020)
  • Anuel AAとの共作 Los Dioses(2021)
  • Ozutochi(2022)
  • Cosmo(2023)

とコンスタントにアルバムを発表し、ストリーミングとツアーの両輪でキャリアを拡大し続けている。

コラボの帝王:YouTubeとグローバル・ポップの頂点へ

オスナの魅力は、ソロ曲だけにとどまらない。むしろ「コラボの帝王」と呼びたくなるほど、フィーチャリングワークの量とインパクトが桁違いである。

  • DJ Snake, Cardi B, Selena Gomez と共演した「Taki Taki」
  • Anuel AA, Daddy Yankee, Karol G, J Balvin が集結した「China」
  • J Balvinとの「Quiero Repetir」
  • Romeo Santosとの「El Farsante (Remix)」 など

英語圏ポップやトラップ勢と自然に混ざりながら、スペイン語のボーカルで確実に存在感を出してくるのがオスナの強さである。声自体が“楽器”のような存在で、曲が変わっても「この声はオスナだ」とすぐわかるアイデンティティを持つ。

YouTube上では、10億再生を超えるミュージックビデオを多数抱え、一時期は「10億再生超えのMVを最も多く持つアーティスト」としてギネス世界記録に認定されたこともある。ストリーミング・プラットフォームと映像メディアの両方で、数字としても圧倒的な存在となった。

映画『ワイルド・スピード』からW杯まで:ポップカルチャーの中心へ

オスナは音楽にとどまらず、映像作品への進出も積極的に行っている。ドミニカのコメディ映画『Que León』で俳優デビューを果たしたのち、ハリウッド大作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク(F9)』にも出演した。
『Fast & Furious』シリーズのファン向けWikiでは、オスナはプエルトリコ出身のレゲトン/ラテントラップ歌手として紹介され、「New King of Reggaeton」と見なされることもある、と記述されている。こうした表現は“自称”ではなく、メディアやファンが彼につけたキャッチコピーだと理解するとわかりやすい。

さらに2022年カタールW杯では、フランス系コンゴ人アーティスト GIMS と共に公式ソング「Arhbo」を担当し、閉会式でのパフォーマンスにも登場した。ラテンアーティストが FIFAワールドカップ のステージで世界中の視線を浴びるという、象徴的な瞬間を作り出したと言える。

ギネス記録、Time100、そしてチャリティー活動

オスナのキャリアを語るうえで、数字と実績は外せない。

  • ラテン・グラミー賞を含む多くの音楽賞の受賞・ノミネート
  • Billboard Music Awards、Billboard Latin Music Awardsなど主要アワードでの複数タイトル獲得
  • ギネス世界記録での認定(YouTubeの再生回数に関する記録 など)
  • 2019年、米誌 TIME の「世界で最も影響力のある100人(Time 100)」に選出

といった、多方面からの評価を受けてきた。

また2017年には、ラテンアメリカおよびカリブ地域の子どもたちを支援する団体「Odisea Children」を立ち上げ、教育や生活支援に関するチャリティ活動にも力を入れている。ストリーミング数字やチャート成績だけでなく、「自分の成功をコミュニティに還元する」という姿勢も、彼が“新世代のスター”と呼ばれる理由のひとつである。

これだけは聴いておきたいオスナの代表曲

最後に、レゲトン初心者〜中級者がオスナを知るうえで外せない曲をいくつかピックアップ。

Si Tu Marido No Te Quiere(remix)


ストリートとYouTubeの両方で広がったブレイクスルー曲。初期オスナの空気感を知るのに最適な一曲。

Dile Que Tú Me Quieres

ロマンチックで泣けるレゲトンの代表格。高い声のメロディが強く耳に残る。

Tu Foto

失恋とノスタルジアをテーマにした、ファン人気の非常に高い名曲。オスナの“泣きメロ”を体感できるキラー・チューンである。

Taki Taki (DJ Snake ft. Selena Gomez, Ozuna, Cardi B)

英語&スペイン語ミックスで世界中のクラブとフェスを制覇したグローバル・アンセム。彼の国際的な知名度を一気に押し上げた一曲と言える。

Caramelo

ポップ寄りのトラックと甘いメロディがクセになる、近年の代表曲。現在進行形のオスナ像を知る入口としてもおすすめの一曲である。

貧困街の少年から“New King of Reggaeton”と呼ばれる存在へ

祖母のアパート、100ドル以下のミュージックビデオ、年間数百本のライブ、YouTubeでのバイラルヒット──。
オスナのキャリアには、きらびやかな成功の裏側に、泥臭くもリアルなストーリーが濃縮されている。

それでも彼は、自分のルーツであるカリブのサウンドと、甘くてしなやかなボーカルを武器に、世界のポップカルチャーのど真ん中まで上り詰めた。「New King of Reggaeton」という呼び名も、最終的にはメディアやファンが自然と彼に重ねたニックネームだと言える。

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