
はじめに:ビートだけじゃない、見た目でも魅せるスペイン勢
レゲトンとファッション──この組み合わせは、今や切っても切れない関係にある。
Bad BunnyがクロックスやGUCCIとコラボし、Karol GがNikeとの特別プロジェクトでFCバルセロナのユニフォームに象徴的なロゴを刻む時代。音楽とビジュアルの融合はラテン音楽シーン全体の潮流だ。
だが、そうした中でも特にスペインのレゲトン・アーティストたちは“ファッションセンス”の部分で際立っている。Quevedo、Ptazeta、La Zowi、Abhir Hathi……。彼らのMVやライブは、音楽だけでなく、ルック・スタイリング・アートディレクションが極めて洗練されているのだ。
なぜスペインのレゲトンは、ここまでファッションと高い親和性を持っているのか? 今回はその背景にある文化的・歴史的・都市的要因を掘り下げていく。
1. スペインの都市文化と「自己表現」の土壌
■ マドリードとバルセロナの「カルチャー都市」としての側面
スペインには、音楽やファッション、アートが自然に交差する“文化の交差点”がいくつも存在する。特に首都マドリードとバルセロナは、若者文化・前衛芸術・反骨精神が根強く残る街として知られる。
- ファッション系のアートスクールや写真スタジオが点在
- クラブやライブ会場ではDJ × デザイナー × 映像作家がコラボするシーンも多い
- 地元ブランド(Palomo Spain, Desigualなど)が音楽アーティストとコラボする流れも強い
つまり、音楽とファッションが“別の産業”として存在していないという点がポイントだ。
2. ストリートとハイファッションの「融合センス」
■ スペインのレゲトンは“モード”を取り込む
ラテンアメリカのレゲトンが持つ「ストリート=リアル=貧困地帯の声」という背景に対し、スペイン勢はより“ファッション性”に重きを置いて再構築している。
例えば:
- La ZowiのMVでは、露出度の高いストリートウェアにハイブランドを合わせ、性の主体性をファッションで表現する
- Abhir Hathiはルーズなシルエットとシンプルな色使いでR&B×高感度ストリートを演出
- Ptazetaはジェンダーレスなファッションを全面に押し出し、個性とカルチャーのアイコンとして機能している
スペイン勢のビジュアル表現には、単なる「見せ方」ではなく、“自己の思想やメッセージを服で語る”感覚が強い。
3. SNS時代の「見た目価値」とスペインアーティストの強さ
■ MV=ミニファッションショー化
TikTokやInstagramが音楽プロモーションの中心になる現在、ルックの強さは再生数・拡散力に直結する。
スペインのアーティストたちは、MV制作においても:
- スタイリストをMV単位で起用
- 配色、カメラワーク、セットデザインに統一感を出す
- カバーアートやプロフィール画像もファッション性を意識
この見せるために作る”美意識の高さ”が、他国のレゲトンアーティストと一線を画している。
さらに、彼らはファッションブランド側からも“文化の顔”として認識されやすい。
QuevedoやPtazetaがスペイン国内のブランド広告に起用されることも多く、コラボのサイクルが自然に回っている。
4. ブランド別:レゲトンアーティストとの関係性
【Gucci】× Bad Bunny
キーワード:性別を超えたスタイリング × グッチの世界観と完全融合
Bad Bunnyは2022年のGucci Valigeriaキャンペーンでメゾンの「旅」をテーマにした世界観の中に起用され、男性でありながらスカートやシルクシャツなどジェンダーレスなファッションを堂々と着こなす存在として、グッチの美学そのものを体現している。
【Fendi】× Sita Abellán
キーワード:スペイン地下シーン×ハイブランドの交差点
スペイン出身のスタイリスト/DJ/アーティストのSita Abellánは、Fendiにバッグのデザインを提供するなど、ブランド側のクリエーションに直接関わっている稀有な存在。彼女はJ BalvinやRosalíaのスタイリングも担当し、ラテンカルチャーとファッション業界を繋ぐ重要人物だ。
【Louis Vuitton】× Ángel Dior(feat. Rosalía)
キーワード:ドミニカン・デンボウのビートが、パリのランウェイを揺らす
2023年、パリで開催されたLouis Vuittonのウィメンズコレクションショーにて、Rosalíaがライブパフォーマンスを行い、ドミニカ共和国出身のÁngel Diorの楽曲が起用された。これはストリート発祥のデンボウが、ハイブランドのステージで取り上げられた象徴的な出来事だった。
【Prada】× Bad Bunny
キーワード:美学と反骨を両立するレゲトン・ファッションアイコン
Bad Bunnyは2023年のMET GALAで、Pradaによるクロップド丈のブラウンスーツを着用。クラシックとアヴァンギャルドを融合したルックで、ファッションメディアでも高く評価された。
おわりに:服を“着る”のではなく、“語る”時代へ
スペインのレゲトンは、ただ踊るための音楽ではない。 自己を“演出”するための表現手段として、ビジュアルとファッションをセットで発信している。
そしてそれは、音楽の文脈を超えて、ライフスタイル、メッセージ、カルチャーそのものとして、多くの若者に届き始めている。
これからのレゲトンを語るなら、音だけでは足りない。
“見た目”から読み解くレゲトン──そこに、スペイン勢が担う未来のヒントが詰まっている。
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