本家グラミー賞にノミネートされたJ Balvin・Feid、ノミネートされなかったBad Bunny|その理由を徹底検証

COLUMN
スポンサーリンク

本家グラミー賞にノミネートされたJ Balvin・Feid、ノミネートされなかったBad Bunny|その理由を徹底検証

2025年2月に開催される「第67回グラミー賞(The GRAMMY Awards 2025)」のノミネートが発表され、ラテン音楽界に新たな波紋が広がった。Best Música Urbana Album 部門には、コロンビア出身の J BalvinFeid がノミネート。だが一方で、これまで4年連続で話題をさらってきた “帝王” Bad Bunny の名前がリストにない。

ラテン・グラミー(Latin GRAMMYs)ではなく、世界の音楽業界が最も注目する「本家グラミー」で何が起きたのか。今回は、この3人の明暗を分けた背景を、リリース時期・戦略・音楽業界構造という3つの視点から検証していく。


スポンサーリンク

1.まず整理:ラテン・グラミーと本家グラミーの違い

グラミー賞とひとくくりに言っても、実は2つの制度がある。ひとつは世界的に最も権威のある The Recording Academy が主催する「本家グラミー賞」。もうひとつは、そのラテン部門として独立した The Latin Recording Academy が主催する「ラテン・グラミー賞(Latin GRAMMYs)」だ。

項目本家グラミーラテン・グラミー
主催The Recording AcademyThe Latin Recording Academy
対象全世界(言語不問)スペイン語・ポルトガル語作品
開始年1959年2000年
開催時期毎年2月毎年11月

つまり、J BalvinとFeidは「ラテン音楽の部門でありながら、本家グラミーの舞台に立った」ということになる。 一方、Bad Bunnyはラテン・グラミーの側では複数ノミネートされているものの、今回「世界基準」の本家枠では外れた。 この点を正しく理解すると、3人の動きがより明確に見えてくる。


2.J BalvinとFeidが“世界舞台”に浮上した理由

両者に共通するのは、「グローバル戦略を意識したリリース設計」である。 Feidのアルバム『FERXXOCALIPSIS』(2023年12月)は、Apple MusicとSpotifyの両プラットフォームで英語圏プレイリストに積極展開され、Billboard 200でもラテンアルバムとしては異例の初登場16位を記録。
一方、J Balvinの『Rayo』(2024年6月)は米国メディアRolling StoneやComplexがこぞって特集を組み、A$AP RockyやBurna Boyといった非ラテン圏アーティストとのコラボを強化。 両者ともに“英語圏市場での存在感”を明確にした。

これらの活動は、グラミーの投票構造にも強く作用する。 本家グラミーの投票権を持つ会員の多くは米国・カナダを中心としたプロデューサー/エンジニア/音楽監督であり、彼らにリーチするためには「米国市場での可視性」が不可欠。 その意味で、J BalvinとFeidは単に“ラテン界のスター”ではなく、「米国主流ポップ文化に浸透した代表者」と見なされたと言える。

また、二人のアルバムはサウンド面でも英語圏トレンドに寄せていた。Feidのアルバムはシンセとトラップ要素の融合、Balvinはネオソウルやアフロビートを織り交ぜた“ハイブリッド・アーバン”を提示。 これにより、グラミーの評価軸である「ジャンル横断性(cross-genre creativity)」に合致した形となった。


3.Bad Bunnyが“外れた”4つの理由

一方で、「グラミー常連」だったBad Bunnyがノミネートを逃したのは偶然ではない。 その背景には、彼のキャリアとアーティストとしての姿勢の変化がある。

① タイミングの問題

Bad Bunnyの最新アルバム『Nadie Sabe Lo Que Va a Pasar Mañana』(2023年10月13日)は、グラミー対象期間(2023年10月1日〜2024年9月30日)には含まれている。 しかしリリース直後に話題が集中し、年明け以降は露出が減少。 2024年春から夏にかけて他のラテン勢(Feid、Karol G、Peso Pluma)が台頭し、投票時期には相対的に存在感が薄れた。

② キャンペーンを“やらなかった”

グラミー賞では、レーベルによる「For Your Consideration(FYC)」キャンペーンが慣例だが、Bad Bunny側は今回はほぼ実施せず。 広告・PR・メディア出演を控え、“沈黙モード”を貫いた。 Billboard誌も “He didn’t campaign for the Grammys this time — his energy was elsewhere.” と指摘している。 本人が「賞レースへの関心を失っている」ことが伺える。

③ 票の分散

2025年はラテン勢の層が厚く、Feid、J Balvin、Carín León、Peso Pluma らが各部門にノミネート。 “ラテン代表票”が分散し、Bad Bunnyに票が集中しにくい構図となった。 ラテン界内部で「新旧交代」が起きていることの象徴でもある。

④ 意図的な距離の取り方

Bad Bunny自身は以前から「賞で自分を測られたくない」と語っており、2023年のインタビューでは次のように述べている。
“Awards don’t define me anymore. I know my impact.”(賞はもう自分を定義しない。自分の影響力はわかっている)
つまり今回は、アーティストとしての価値観の転換点。 彼にとっては「ノミネートされるかどうか」よりも、「自分の世界観を貫くかどうか」が重視されているのだ。


4.“ラテン音楽の主戦場”が変わりつつある

2020年代前半、グラミーのラテン系部門はほぼBad Bunnyの独壇場だった。 しかし2025年の構図を見ると、J BalvinやFeidといった“第二世代”が本家グラミーへ進出。 ラテン音楽が“ワールドミュージックの一分野”から、“ポップカルチャーの中心”へと地位を変えたことが分かる。

かつては「スペイン語曲が主要部門に入ること自体が珍しかった」が、今ではそれがニュースではなくなりつつある。 FeidのSpotify再生数は月間4,000万超、J Balvinも依然として月間3,500万超を維持。 このスケールは、英語圏のトップアーティストと並ぶ水準だ。

一方、Bad Bunnyはもはや“レゲトンの象徴”ではなく、“カルチャー全体の象徴”へ。 ラテン音楽を越えた存在になったからこそ、賞そのものにこだわる必要がない──それが今回の「不在」の真意とも言える。


5.結論:評価軸の違いが3人を分けた

2025年のグラミー結果は、単なる“選ばれた/外れた”ではなく、 ラテンアーティストがそれぞれどのフェーズにいるかを示している。

  • Feid: 上昇期。新世代代表としてグローバルに挑む段階。
  • J Balvin: 再浮上期。トレンドと戦略を再構築し、英語圏へ再進出。
  • Bad Bunny: 超越期。業界構造そのものを外側から動かす存在。

ラテン音楽の影響力はもはや無視できない。 グラミーの舞台で彼らの動きが注目されること自体が、 “英語圏中心の音楽産業が変わりつつある”という最大の証拠だろう。


出典:GRAMMY.com(第67回ノミネート一覧)、Billboard / Rolling Stone / Variety 各紙 2024–2025年報道より。

コメント

タイトルとURLをコピーしました