▼ 前編記事はこちら
【前編】世界を揺らす「レゲトン×サッカー」最強コラボ&W杯トレンド最前線メッシとSpotifyNo.1アーティストのバッド・バニーが奇跡のコラボ!世界中で話題となった大ヒットCMの裏話から、W杯のスタジアムを激震させるラテン音楽の爆発力まで
名門ユースからポップアイコンへ:マルマ(Maluma)のガチすぎるサッカー遍歴

フットボールの道を突き詰め、そこから音楽の頂点へと完璧なピボットを果たした男がいる。現在のラテン・アーバン・ミュージック界を牽引するメガスター、マルマ(本名フアン・ルイス・ロンドニョ・アリアス)だ。
1994年1月28日、レゲトンの聖地として世界にその名を知られるコロンビアの都市メデジンに生まれたマルマ。彼が現在ステージで見せる強靭な肉体のルーツは、少年期の凄絶なフットボール歴にある。彼は決して「サッカーが趣味の」アーティスト」ではない。コロンビアが誇る世界的な名門クラブであるアトレティコ・ナシオナル(Atlético Nacional)、そしてラ・エキダ(La Equidad)の下部組織(ユースチーム)に実際に在籍していた正真正銘のアスリートであった。
※アトレティコ・ナシオナルは、コロンビア国内リーグ最多優勝回数を誇り、南米選手権を二度制したコロンビアのメガクラブ
幼少期からスポーツに熱中し、プロサッカー選手になることを夢見てユースカテゴリーの厳しい環境でプレーしていた彼は、日々泥にまみれながらフットボールの基礎を叩き込まれた。
転機が訪れたのは15歳の時である。叔父への誕生日プレゼントとして、地元のスタジオで初めてレコーディングを経験した。この時にスタジオのプロデューサーに歌唱の才能を見出されたことが、彼の運命を大きく変える。翌年、16歳になったマルマは、本格化し始めた音楽活動に専念することを決意し、プロを目指していたサッカーの道を離れる選択をした。
16歳での決断が、のちにラテン音楽界の歴史を塗り替えるポップアイコンを生み出すことになる。現在、彼が世界のビッグマッチに顔を出し、名だたるトッププレイヤーたちから一人の戦友として絶大なリスペクトを受けるのは、彼自身がかつて「プロを目指し、ユースの過酷な競争を勝ち抜いてきた側の人間」であることを誰もが知っているからだ。
マルマの世界を「音」で体感する
フットボールの夢を置き去りにしてマイクを握った、マルマの等身大のリアルを楽しむならこの一枚は外せない。
自身の本名「Juan Luis」をタイトルに冠し、アーティストとしてさらなる進化を遂げた野心作。
- Maluma / Don Juan(輸入盤CD)
|
| 【輸入盤CD】【新品】Maluma / Don Juan【K2024/1/26発売】 価格: 2,290円 (2026/6/14時点) |
マルマとネイマール、元恋人を巡るミームと名曲『Hawái』の裏に隠された真実
そのマルマのキャリアにおいて、フットボール界と音楽界を揺るがす事件が2020年に発生した。それが、ブラジル代表のスーパースター、ネイマールと、マルマの元恋人であるモデルのナタリア・バルリッチ(Natalia Barulich)を巡る、前代未聞の三角関係ミーム騒動である。

マルマとナタリアは過去に交際していた事実が報じられており、破局後、ナタリアがネイマールと急接近したことが世界中のメディアの注目を集めていた。そんな最中の2020年、マルマはシングル『Hawái(ハワイ)』をリリースする。
この曲は、別れた元恋人がインスタグラムにハワイ旅行の華やかな写真を投稿し、新しい恋人との幸せをアピールしているものの、それはすべて自分への当てつけであり、心の中ではまだ自分に未練があるはずだ、と強がる男の心情を描いた失恋ソングであった。公式の作品説明でも、ミュージックビデオを通じて結婚式の破綻や恋愛の葛藤がリアルに描かれている。
事件が起きたのは、曲のリリース直後である。当時パリ・サンジェルマン(PSG)に所属していたネイマールが、チャンピオンズリーグの試合に勝利した直後、ロッカールームでチームメイトのアンヘル・ディ・マリアらと共に、この『Hawái』を大合唱する動画がネット上に公開され、瞬く間に世界中へ拡散された。
この直後、マルマが自身のインスタグラムのアカウントを一時的に削除(のちに復活)したことで、インターネット上は騒然となった。世界中のファンやメディアは「ネイマールがマルマを公に煽った」「マルマが耐えきれずにSNSを消した」というストーリーを組み立て、特大のネットミーム(都市伝説的なゴシップ)として消費した。
しかし、ここにファクトとしての明確な一線を画す必要がある。 のちにインタビューに応じたマルマ自身は、この楽曲について「特定の誰か(ナタリア)に向けて書いたものではない」と明言している。さらにネイマールの動画に対しても「彼とは何のトラブルもないし、僕の曲をロッカールームで流して歌ってくれたことに感謝している」と、公式には一切の不仲説や関連性を否定する大人な対応を見せている。
確実に言える事実は、ネイマールがロッカールームで歌った動画が実在し、マルマがアカウントを一時的に消したのも事実であるということ。解釈が暴走したネット上のミームが世界中で爆発的にバイラルした結果、『Hawái』の知名度は一気に跳ね上がり、彼の代表曲の一つとして世界的なメガヒットを記録した。これこそが、あまりにも鮮やかな激動の記録である。
バルサのゴールマウスからハリウッドの爆音へ:ホセ・マヌエル・ピントの超本格的キャリア
マルマが「サッカーから音楽へ」の転向組だとすれば、スペインの地で「現役時代からサッカーと音楽を両立し、双方のプロフェッショナルとして頂点を極めた」本物の怪物がいる。元FCバルセロナのゴールキーパー、ホセ・マヌエル・ピント、またの名を音楽プロデューサー「Pinto “Wahin”(ワヒン)」である。

ピントは、セルタ・デ・ビーゴでサモラ賞(リーガ・エスパニョーラで最も失点率が低いGKに贈られる賞)を獲得し、その後名門FCバルセロナへ移籍。絶対的守護神ビクトール・バルデスのバックアップとして、リオネル・メッシらと共に数々のタイトルを掲げた超一流のプロフットボーラーであった。コーンロウの髪型がトレードマークだった彼だが、その頭脳の中身は現役時代から完全に独立したプロの音楽プロデューサーであった。
事実、ピントは現役時代の早い段階から、独自のレコードレーベル/プロジェクトである「Wahin Makinaciones(ワヒン・マキナシオネス)」を立ち上げて活動していた。カンプ・ノウのゴールマウスを守る一方で、裏ではプロデューサーとしてレゲトンやヒップホップ、ラテン・アーバンのビート制作を本格的に行っていたのである。
引退後、彼は「Pinto “Wahin”」としての音楽活動へ100%シフトする。その実績は、元アスリートのセカンドキャリアという生ぬるいレベルを完全に凌駕している。
2017年、世界的大ヒット映画シリーズの第8作『ワイルド・スピード ICE BREAK(The Fate of the Furious)』の公式サウンドトラックに、Pinto “Wahin” & DJ Ricky Luna名義で楽曲「La Habana (feat. El Taiger)」を提供。この劇中歌は、映画の代名詞である激しいカーアクションを彩るナンバーとして、サウンドトラックのトラックリストに公式にクレジットされている。
この楽曲が収録されたサントラアルバム『The Fate of the Furious: The Album』は、米国ビルボードのメインアルバムチャート「Billboard 200」で最高10位、さらに「Top R&B/Hip-Hop Albums」チャートでは見事に1位を獲得する世界的大ヒットを記録した。世界最高峰の映画コンピレーションアルバムに、欧州王者を経験した元プロサッカー選手がプロデューサーとして名を連ねるという、前例のない偉業を成し遂げたのである。
現役時代から独自のレーベルを率い、フットボールの最高峰から世界の音楽産業のメジャー前線へとダイレクトに飛び移ったピント。彼にとって、ゴールマウスを守ることとヒットチャートのビートを生み出すことは、同じ質の表現衝動だったのだ。
ピントのトラックを「映像」で体感する
『La Habana』の熱狂を200%楽しむなら、映画本編は外せない。
- ワイルド・スピード ICE BREAK(Blu-ray)
|
| ワイルド・スピード ICE BREAK【Blu-ray】 [ ヴィン・ディーゼル ] 価格: 1,650円 (2026/6/14時点) |
結論:ラテンの鼓動はピッチに鳴り響く
前後編にわたってお送りした「レゲトン×フットボール」の濃密な世界。バッド・バニーがスタジアムを揺らし、マルマがユースの記憶を胸にステージへ立ち、ピントがハリウッドに重低音を響かせる。
なぜ、これほどまでにこの二つのカルチャーは強く、深く結びつくのか。それは、どちらもストリートの過酷な現実から這い上がり、自らの身体とリズムだけを武器に世界を揺るがす「成り上がりの芸術」だからだ。
2026年W杯のメガスタジアムで流れるアンセムの裏には、ピッチの芝生とスタジオの防音壁を自由に行き来し、表現の限界を突破した者たちの熱き血が流れている。フットボールのホイッスルが鳴り響くとき、そこには必ず、鳴り止まないラテンのビートが並走している。
▼ 前編記事はこちら
【前編】世界を揺らす「レゲトン×サッカー」最強コラボ&W杯トレンド最前線メッシとSpotifyNo.1アーティストのバッド・バニーが奇跡のコラボ!世界中で話題となった大ヒットCMの裏話から、W杯のスタジアムを激震させるラテン音楽の爆発力まで


コメント