ヨーロッパで進化するレゲトン:スペインの新世代アーティストたち

COLUMN

はじめに:中南米発のレゲトンが「ヨーロッパ化」している?

レゲトンといえばプエルトリコやコロンビアといった中南米を思い浮かべる人が多いだろう。実際、Daddy Yankee、J Balvin、Karol Gなど、世界的にブレイクしたスターの多くはラテンアメリカ出身だ。

だが近年、そのレゲトンの進化の舞台がヨーロッパにまで拡がっている。特に注目すべきはスペイン。マドリードやバルセロナを拠点とする若手アーティストたちが、“ラテンアメリカ生まれのビート”を自国の感性で再構築し、新たな潮流を生み出しているのだ。

この記事では、なぜ今スペインでレゲトンが熱いのか?そして、どんなアーティストがその最前線にいるのかを紹介していく。

スペインにおけるレゲトン人気の背景

■ ラテン語圏としての地理的・文化的近接性

スペインは歴史的にも中南米諸国と強い結びつきを持つ。言語的にもスペイン語が共通しており、ラテンアメリカの音楽が比較的“そのまま受け入れられやすい”土壌がある。

実際、2000年代からDon OmarやWisin & Yandel、Ivy Queenなどの楽曲はスペインのクラブで大きな支持を得ていた。つまりスペインにおいては、レゲトンは「新しい」音楽ではなく、”長年親しまれてきた輸入文化”なのだ。

ヨーロッパ独自の感性との融合

スペインの若手アーティストたちは、ただレゲトンを模倣するのではない。地元のヒップホップ、エレクトロニカ、ポップとのクロスオーバーを試み、独自の“ユーロ・レゲトン”ともいえるサウンドを生み出している。

その結果、ダークでミステリアスなトーンやメロディ重視のスタイル、あるいは社会的メッセージを込めた歌詞など、“ラテン×ヨーロッパ”の化学反応が生まれている。

注目すべきスペインの新世代アーティストたち

Ptazeta(プタセタ)

・出身:カナリア諸島
・特徴:トラップとレゲトンのハイブリッド、強烈なフロウとリリックが武器
・代表曲:「Trakatá」「Mami」

2020年以降、スペイン語圏で急速に存在感を高めているフィメールMC。女性×ラテン×トラップという文脈で語られることも多く、レゲトンにおけるジェンダーの壁を突き破る存在として注目されている。

Quevedo(ケベド)

・出身:カナリア諸島
・特徴:メロディアスなレゲトン、ポップとダークネスのバランスが絶妙
・代表曲:「Quédate(Bzrp Music Sessions #52)」

アルゼンチンのBizarrapとのコラボで世界的ヒットを記録したQuevedoは、スペイン発のグローバルレゲトンの象徴的存在に。中南米のリスナーからも高く評価されており、ジャンルを越えたスター性を持つ。

La Zowi(ラ・ゾウィ)

・出身:グラナダ(フランスとスペインのハーフ)
・特徴:退廃的で官能的なレゲトン、アンダーグラウンド感が強い
・代表曲:「ORGASM」「Sugar Mami」

Trapやレゲトンを使ってフェミニズムや女性の主体性を表現する独自のスタイルで、スペインの音楽メディアからも熱視線を集めている。“エロティック・レゲトン”の開拓者とも言われる。

スペイン産レゲトンの特徴とは?

「都会的で洗練されたサウンド」

スペインのレゲトンは、泥臭さよりもクールさを重視する傾向にある。ヒップホップやEDM的なエッジの効いたトラックが多く、アンダーグラウンドからファッション誌まで幅広い層にアプローチしている。

「ジェンダー意識の強さ」

女性アーティストが非常に活躍しており、性や権力構造に対するアイロニーや抵抗のメッセージが込められているケースも多い。ラテンアメリカではまだ保守的な部分が強いのに対し、スペインはより自由な表現が許容されやすい土壌を持つ。

「ジャンルの越境と実験精神」

トラップ、R&B、エレクトロ、サルサ──どんな要素も取り入れる柔軟さが、ヨーロッパらしい前衛性を生んでいる。スペインのレゲトンは、常に“他ジャンルとの対話”の中で進化しているのだ。

これからの展望:ヨーロッパ発レゲトンの未来

スペインのレゲトンは、まだ“グローバル主流”とは言えないかもしれない。しかし、BizarrapとのセッションでQuevedoが大ヒットを記録したように、拡張の兆しは確実に見えている

今後は:

  • 中南米アーティストとのコラボ
  • ファッションブランドとの連携
  • フェスやイベントでの露出増加
  • SNSやTikTokによるバイラル戦略

といった展開を通じて、ヨーロッパ発レゲトンがさらに勢いを増すことは間違いない。

おわりに:多様化するレゲトン、その可能性

レゲトンはもはや「プエルトリコ発のダンスミュージック」ではない。今や世界中のアーティストたちがこのビートを手に取り、自国の文脈で翻訳し始めている。

その中でも、スペインは言語、歴史、文化的感性の全てを備えた「第二の発信地」となり得るポテンシャルを持っている。

これからレゲトンを聴くなら、中南米だけではない。スペインからも目が離せない時代が、すでに始まっている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました