近年、世界的な音楽トレンドを席巻し続けているラテン・ミュージック。その最先端において、レゲトン以後の新しい感性を提示し、グローバルシーンで急速に注目を集めている最重要ユニットが存在する。それが、メキシコ出身の3兄弟プロジェクト「Latin Mafia(ラテン・マフィア)」である。
彼らは2026年8月に開催される「SUMMER SONIC 2026(サマソニ)」の東京公演(8月15日・BEACH STAGE)への出演が決定している。世界のアーティストからも注目を集める彼らにとって、今回のサマソニは日本のフェスにおける初のパフォーマンスとみられる。
いま、音楽ファンの間で急激に関心が高まっているLatin Mafiaとは一体何者なのか。その歩みから独自のサウンドスタイル、歌詞に込められたメッセージ性まで、彼らが「新世代のアイコン」と呼ばれる理由を徹底的に解剖する。
1. 宅録から世界へ:モンテレイ出身の3兄弟が起こしたインディの奇跡
出身とメンバー構成
彼らはメキシコ・モンテレイ出身(現在はメキシコシティを拠点に活動)の3兄弟ユニットである。フロントに立つのは双子ボーカルのMilton(ミルトン)とEmilio(エミリオ) De La Rosaであり、彼らの楽曲の全プロデュースを兄のMike(マイク) De La Rosaが手掛けている。
結成と初期フェーズ:コロナ禍の“ベッドルーム制作”
ユニットの始動は2021年である。完全なインディペンデント(自主制作)として、「Más Humano」などの初期シングルをリリースした。コロナ禍の真っ只中、自宅のベッドルームで楽曲を制作する様子やその制作過程の裏側をTikTokをはじめとするSNSで積極的に発信。これが瞬く間にZ世代を中心とした若者の心を掴み、バイラルヒットを記録するきっかけとなった。
インディ成功からメジャー契約へ
2021年から2023年にかけて発表されたシングル群(「Julieta」「Sal Rosa」「Flores」「No Digas Nada」など)は、YouTubeやSpotifyで数百万回再生を記録し、ミリオン再生を連発する。特筆すべきは、当時の彼らがどこのレコードレーベルにも所属していない「完全無所属のインディアーティスト」であった点である。
レーベルのバックアップがない状態のまま、メキシコ国内のワンマンライブを次々とソールドアウトさせ、さらにはコーチェラを含むアメリカや南米の大型フェス、主要フェスへの出演を果たすという快挙を成し遂げた。
その後、2024年7月にBad Bunny(バッド・バニー)らを擁するラテン系レーベル『Rimas Entertainment』との契約を発表。同年10月25日には、彼らのキャリアの集大成となる待望のデビューアルバム『Todos los días todo el día』をリリースした。
2. ジャンルという概念の解体:多彩なサウンドを分解する
Latin Mafiaの最大の強みは、既存の音楽ジャンルの枠組みに決して囚われないそのハイブリッドな音楽性にある。音楽メディアからは「genre-agnostic(ジャンルを気にしない)」「progressive pop」と評され、イタリアの音楽メディアでは「感情的でデジタルでハイブリッドな“新しいラテン・ポップのマニフェスト”」と評されている。
メンバーそれぞれのルーツが異なるからこそ生まれる、多彩なサウンドのブレンド感を代表曲とともに解説する。
「Julieta 」
Latin Mafiaの名を決定づけたキートラック。いわゆる“Mexaレゲトン”的なスタイル、あるいはメキシコ発のレゲトン的なサウンドであり、伝統的なレゲトンのビートを基調としながらも、メキシコ的な感性と現代的なエレクトロニック・サウンドを融合させた作品である。
「Flores」
Afrobeats(アフロビーツ)の軽快なリズムを思わせるトラック。洗練されたR&Bのメロウさと、ラテン・ポップならではのキャッチーなメロディラインが同居する楽曲である。
「Patadas de Ahogado」
メキシコのシンガーソングライター・HUMBE(ウンベ)を迎えた楽曲。これまでのクラブライクな路線とは一線を画す、壮大でドラマチックなシンフォニック・ポップ寄りのアプローチを見せている。
「Siento que Merezco Más」
アルバムの中でも感情的なハイライトを迎える1曲。フラメンコの哀愁漂うニュアンスから、EDMのエナジー、そしてロックのダイナミズムまでが1曲の中で混ざり合うエモーショナルな楽曲である。
その他の重要トラック
彼らの引き出しは驚くほど広く、「Sentado Aquí」ではパンクのエナジーを取り込んだギターサウンドを響かせ、「Qué Vamos a Hacer?」ではトラップ寄りのラテンR&Bを提示する。また、「Yo Siempre Contesto」ではメキシコの伝統的な要素と現代のハイパーポップ的な感覚を交錯させ、「Tengo Mucho Ruido」では彼らの祖母の声をサンプリングしたアンビエント調のトラックに仕上げている。
ファンの間では、これらの曲名を並べると「隠れた詩(ポエム)」になると話題になっており、こうしたコンセプチュアルな構造もアルバム『Todos los días todo el día』が国内外で高く評価される要因である。
3. 若者の“居場所”となる歌詞世界:孤独、不安、家族のルーツ
Latin Mafiaが若年層から熱狂的に支持される理由は、耳に残るサウンドだけではない。彼らが紡ぐリリックのテーマが、現代を生きるリスナーのリアルな脆さや葛藤に深く寄り添っているからである。
描かれるテーマ:突然の成功とメンタルヘルス
彼らの歌詞の中心にあるのは、名声のプレッシャー、自己肯定、メンタルヘルス、現代人が抱える特有の不安や孤独、コミュニティへの帰属意識である。デビューアルバムはまさに、「ベッドルームから突如としてスターダムに駆け上がった自分たちの成功と、それに伴う周囲からの期待、あるいは内面にある不安をどう受け止めるか」を描いた作品であるとメンバー自身が語っている。
コミュニティとの結びつき:“belonging(居場所)”のムーブメント
彼らのファンベースは、若いラテン/Latine世代が中心である。リスナーは彼らの音楽を、自分たちのアイデンティティや日々の葛藤を映し出す鏡として受け止めている。そのため、一部のカルチャーシーンでは、彼らの活動を単なるバンドやユニットの枠を超えた「“belonging(居場所)”を作り出すムーブメント」として語ることもある。
弱さを隠さないスタンスと家族への愛
インタビューにおいてメンバーは、「自分たちの弱さや迷いを隠さずに共有することで、聴き手が安心できる場所を作りたい」と明言している。前述の通り、楽曲「Tengo Mucho Ruido」に実の祖母の声を直接サンプリングして取り入れるなど、自分たちの家族やルーツを作品に直接持ち込む演出からも、人間味と血の通った繋がりを大切にしていることが窺える。
4. 世界が認める実績:アワードとカルチャーシーンへの影響力
彼らの快進撃は、すでに具体的な実績として音楽業界の歴史に刻まれている。
受賞・ノミネーション実績
ラテン・グラミー賞において、デビューアルバム『Todos los días todo el día』が「最優秀オルタナティブ音楽アルバム」にノミネート。さらに、アルバムの看板曲である「Siento que Merezco Más」が「最優秀オルタナティブソング」にノミネートされ、主要メディアからは「最優秀新人」部門のノミネーションも含めて大きな話題を呼んだ。
カルチャー・ファッション面での注目度
Latin Mafiaの影響力は音楽の枠組みを越え、モード・ファッションの世界にも及んでいる。パリのEMC(ファッションコンサルティング会社)は彼らを「スタイルと音楽の双方で新しいスペイン語ポップを体現する存在」として紹介している。さらに、ファッションシーンからも注目されており、Willy Chavarria(ウィリー・チャバリア)のようなブランドとも接点を持つなど、ユースカルチャーのアイコンとしての地位を確立している。
異ジャンルからの支持とシーンでの位置づけ
彼らの音楽は、ラテン・ミュージックの枠外からも高く評価されている。Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)など他ジャンルのアーティストからも支持を集めており、彼らのサウンドが本物であると証明する形となった。Rosalía(ロザリア)以降の「新しいスペイン語ポップ」の文脈の最先端に位置し、Rauw Alejandro(ラウ・アレハンドロ)やOmar Apollo(オマール・アポロ)といった世界のトップランナーたちと並んで語られる存在となっている。
5. サマソニ2026での来日:いま、目撃すべき理由
2026年8月15日(土)、サマソニ東京のBEACH STAGE。このステージが、日本の音楽シーンにとって注目すべき瞬間となる。
カリン・レオンがキュレーションする「ラテン特化」の夜
今年のBEACH STAGEは、現代ラテンシーンの巨頭であるカリン・レオン(Carín León)がキュレーションを担当する。公式が「世界のラテン・シーンがBEACH STAGEに押し寄せる!」と宣言する通り、Latin MafiaやPaloma Morphy(パロマ・モルフィ)といった、今まさに世界を揺らしている最先端のラインナップが配置された。
キャリア“急上昇中”のタイミングでの来日
主要フェスでの成功、ラテン・グラミーへのノミネーション、北米ツアーを経験した勢いのまま、アルバムリリースから連なるスピード感で日本へと上陸する。キャリアの「最もエナジーに満ちあふれた急上昇フェーズ」での日本での貴重な公演を目撃できる機会はきわめて重要である。
「あのとき観ていた」と言える未来のために
「ポスト・レゲトン世代」「ラテン・ポップの次の顔」「ベッドルーム発のラテン・ポップ新世代」――彼らを形容する言葉はどれも刺激的である。サマソニ2026のBEACH STAGEで彼らのパフォーマンスを体感しておくことは、今後の世界的な展開を振り返り、「あのとき、サマソニのビーチでLatin Mafiaを観ていたんだ」と語るための、絶対的な体験となる。


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